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夢が先にかなった日

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義務的な何か










嗜み失格見習い紳士(←題)



注)嗜み=皮肉、のつもりがそれになってません。
注)二人とも人間です。
注)バカ左=米、右の大学生=英
注)米が高校生です。
注)二人ともイギリスに居ます。
注)今更ですが米英です。年下攻めです。
注)苦情は受け付けません。




















 いきなり当人から電話が入った。携帯に。だから正確にはメールなんだが。しかも講義中。いや、そこはマナーだ、それこそマナーだ。マナーモードにしていたから俺にしか分からない。チラっと手元を覗いたりしても特に問題はないようなクラスだったから、一旦ペンを置いてポケットの携帯の画面がギリギリ見えるくらいに開けて、割と短い本文に目を通して、弾かれたようにパチン、と明らかに分かるような音を立てて携帯を閉じてしまった。
 幸い、教壇の教授にまでは届かなかったらしい。ただ、付近の席の学生にチラっと視線を注がれたくらいだったが、正直、俺は自分がどんな顔をしていて、それに周囲がどんな感想を持っているんだろうとか、そんな思考が働かないくらい、閉じた携帯を握っている右手が机に戻ろうとしなかった。
 頭の中で、短いメール本文の内容がこだまして五月蝿い。
 ああクソ、大学の授業は90分が基本とか誰が決めたんだよ。
 しかも、そこは流石のオックスフォード。決まりには容赦しないし、教授連中も質がいいから滅多に休みなんてない。
 でも。
 やっぱりメールの本文を思い出したら、素直に次の講義に出る気なんか消し飛んだ。Cマイナスでも結構だ。
 教授の、いつものだらだらした口調の「今日はここまで」が聞こえてから、俺は物凄い勢いで持ち物を片付けて席を立った。他の誰よりも早く。「次回までの課題は」なんて言ってる教授の声を撥ね退けるように教室のドアを閉めた。

『センセ、昨日ちゃんと退学してきたぞ!』

 ……バカッ。
 バカだ。本当にどこまでもバカだ。
 何がセンセ、だ。
 何が昨日、だ。
 何がちゃんと、だ。
 退学、って何の話だ……バカッ!

 キャンパスを急ぎ足で出る時、同じクラスをとってる友人達から何度か呼びかけられたが、聞こえないふりをしてゲートに向かって急いだ。
 向かう先はシティーの中でもかなり大きな総合病院。行き慣れた道、敷地、出入り口に廊下、曲がって向かう、少し隔離されたような佇まいの病棟(という程寂れている訳じゃない。ただ、建物が別にある、というくらいなんだが)毎週2回か3回は、俺は此処に来る。特に曜日は決めていないから、俺の都合がいい時になってしまっているんだが。
 用事は一つ。入院している一人の患者の院内教師(というか、元々普通の家庭教師だったんだが、その生徒が入院したからこうなっているだけだ)
 そいつの名前はアルフレッド・F・ジョーンズ。通称というか、愛称はアル。国籍としてはアメリカだが、本人の志望と親の許可で、どうしてもイギリスの大学に進みたいから、とジュニアを出た後、こっちのハイスクールに編入してきたのだ。成績は元からそこそこいい。俺はこれといって指導も何もしちゃいない気がするし、何で俺がとも思うんだが、俺とアルの親達が知り合いで、アルがそういう事情でこっちに来るから勉強でも見てやってくれ、と一方的に言われたのがそもそもの始まり。
 だから最初は思ったものだ。別に勉強に補佐なんかなくたって、気質というか風土というか、こっちの大学の慣習に馴染めてちょっと頑張れば、アルが志望しているオックスフォード――ああ、平たく言わなくても俺の大学だ――に入るのに不可能はないくらいだ。だから親達が補佐にしようとしたのも分からないではないから付き合ってきたんだが。

 最初は勿論家庭教師だから、アルの下宿……まぁ、一人暮らししている家に通いでやっていた。アメリカとこっちと、時期的にハイスクールのカリキュラムの進度がズレてしまうから、その補充やらこっちの学校の文化みたいなものを教えて補佐しなきゃならなかった。
 会った時から明るいヤツで、よく笑うし、声もデカいし、皮肉が分かってなかったり、逆に笑う必要のない所で爆笑したりするし、割と子ども染みたストーリーの映画やら何やらが好きだったりした。付き合わされる俺は堪ったものじゃなかったんだが。
 それでも、暫く一緒にそういう生活を続けていれば身の上話だって出てくる。その時に、アルが、いや、正確に言うならアルの親が、突飛というには実に突飛な彼の志望を呑む気になった事に合点がいく事実を知ったのだ。
 見かけからは想像しにくいし、本人の行動は健康そのものだったから、すぐに分からなかっただけの話で――

 あいつは、アルは――

「アル!」
 自分でも、その開け方はないだろうと思う勢いで、病室のドアを開けた。先週くらいからそうなったのだが、アルの居る部屋には他の患者は居ない。やや広い個室状態だ。だからベッドまで行くのに結構歩かなきゃならない。
 この広さも、別に元々大人数の部屋だった所からアルだけ残したとかそういう事情でそうなっているんじゃない。緊急時に、それなりの機材が入るスペースが必要だからだ。この広さを感じる度、窓に近い所のベッドで半身を起こしているアルの顔と声を確かめるまでの不安が募って仕方なくなってきていた。
 ドアの音と、俺の声に吃驚したのか、元々は横になっていたのかもしれない体を少し起こして、アルは特徴のあるキョトンとした顔でこっちを見ていた。
「やぁ、センセ!」
 いつも通り。ウインクは余計だっつの。
「やぁ、でも、センセ、でもねぇ」
 つかつか歩み寄ってサイドの椅子に腰掛ける。この上なく不機嫌に。
「んーと、じゃあ、ハッロォ~ゥ?」
「挨拶の話してンじゃねぇ!」
 にやついた顔を張り倒してやろうかと上半身を上げて、目の前のアルを漸くしっかり見た。顔が少し赤い。いつもはくりくりとしていたり鋭い時もあったりする目が、笑顔でいるというだけじゃない理由で、少し、ぼんやりしていた。
「…………熱、でもあんのか、お前」
 上げかかった手を止めて呟くと、アルがまた少し笑った。
「あー、うん、昨日からかな。くしゃみとか咳は出てないから大丈夫だぞっ!」
「大丈夫じゃねぇ!」
「ん? いや、だからセンセにも飛び火しないぞ?」
「バカ! だからそういう話じゃねぇ! あと、そのセンセってやめろ。いつも通りでいい」
 ちょっと顔を背けながら椅子に腰を戻す。アルはほんの少し笑ったような気配を出して『じゃあ、アーサー』と、穏やかな声で呼ばれた。
「……何で退学なんかした」
 腰を下ろしても斜めを見ながら言う。少し眉間に力が入った。
「だって、出るアテもないのに居たってしょうがないじゃないか」
「……ッ!」
 いつものように飄々と他人事のように言われた言葉に、俺は今度こそ我慢出来ない、とアルの胸倉を引っ掴んで体を近づけようとした。が、緩やかだったけれど素早い動きで、アルが襟を掴んだ俺の腕を軽く押し返して視線を下げた。
「……アル……?」
「ごめんよ、でも、今度の、流感じゃないんだ。あんまり近付くと、感染っちゃうんだぞ」
 口調はいつも通りだったけれど、息が少し荒かった。肩も俺の腕を押し返そうとしている手の先も、少し震えている。
「……アル、お前、寒いんじゃねぇのか?」
「別にそんなことないぞ」
「嘘つけバカッ! 顔上げてみろ!」
「駄目なんだぞ。ホントに感染っちゃうんだぞ……ッ」
「! おい、アル!」
 自分の言葉もようよう終わらせたくらいで、アルは襟を掴んでいた俺の手と腕に凭れるように一瞬力無く体を傾けた。俺も何とかそれを受け止めて支えて、ナースコールのボタンを探した。
 やっぱり熱だ。しかも思っていたより、高い、熱い。確かにくしゃみや咳などは出ていなかったようだけれど、ただの風邪というよりは、もっと違う、……インフルエンザが酷くなったら、こうなるのかもしれない、と思うような熱。
 それはつまり、流感の熱なんかよりは、遥かに。
 ――命取りだ…… だってこいつは、アルの体は……
 アルを支えたままでナースコールを押すゆとりがなくて、届かない訳ではなかったのだが、何分か、いや何十秒かだったかもしれない。かなり久しぶりに、アルの体重を感じながらアルの半身を抱えて横にさせようとした時、少し忙しない呼吸の合間にアルが呟いた。
「こっちのハイスクールも、悪くない、ぞ」
「……アル、あんまり喋るなよ」
「休んだ事も、結構、あったけど、……楽しかったぞ」
「分かったから……」
「それに」
「あ?」
 アルがフ、と息を落ち着かせて、やっと少し目を開いてこっちを見た。顔は、いつもの人懐こいような、若者っぽい笑顔で。
「アーサーの本とか、ノートとか見てたら、……俺も、行けてたような、気がしてたんだぞ」
「……アル……お前」
「HAHA……置き、っぱなしにして、寝ちゃう、から、いけないんだぞ」
 言って、またあの笑顔で見る。そしてまた余計なウィンク。
 いつも、教科書でも何でも、「『仮定法』とか『if』とか、もうそういうの好きじゃないんだぞっ。『もし』なんて考えたって結果は変わらないんだぞっ」なんて、別にそんな文章で答えを書けなんて問題がある訳じゃないのに、目の前の文章にそれがあっただけでそんな事をすぐ言うやつだから。だから、そんな言い方をするんだろう、とか、妙に冷静に考えている自分が、酷く、厭だった。
 考えるのが厭で、少し真剣に瞬きした俺の顔の前で、アルはまだ笑っていた。
 そしてそのまま、自分を横たえようと抱え、支えていた俺の胸の方に、ぽすっと顔を埋めるように寄りかかってきた。
「……ッ、アル……!」
「今日、は、いつもと逆、だぞ」
 アルがくすっと笑ったような気がした。
 俺は俺で、違う震えが止まらなかった。
 熱だけなら、熱だけで済むなら、感染ればいい。インフルエンザでも何でも。
 いや、そもそもアルが罹ってしまった病気ごと、俺に感染ればいい。
 感染れば、いいのに。
 
 いつもは、だから、しなかった、出来なかった。
 ハグはしても、頬や額へのキスくらいはしても。
 お互い、何でこうなってしまったんだろうとか、神様なんかやっぱり居ないとか、色々思ったりしたけれど、今は、寧ろ感染ればいいと思った。キスや抱き合いやそれ以上の事で感染る可能性が少しでもあるなら。
 今まで忌避してきた全てをやってやりたい、やってしまいたいと思った。
 思ったら、勝手に体が動いて、アルの唇に軽く噛み付くような勢いで口付けていた。
 アルの唇は、やっぱり熱い。熱の所為だ。浅く漏れる呼気も、熱を物語る。
「……ッアーサ」
「黙れ、バカ……ッ」
 息だけの声と、腕の軽い押し返しで抵抗してくるアルは、小さく囁く以外は、固く唇を結んだままだった。いつも通りに。
 これ以上の接触はしない、出来ない、俺とアルの、最初で最後の約束事。

 卒業するアテがないなんて、あるもんか、バカ。
 主席譲られた方が恐縮で居心地悪いだけだろうが、バカ。
 何がちゃんと、だバカ。
 笑ってンじゃねぇ、バカ。
 行けてた気がしたって何だ、バカ。
 バカ、バカ、バカ……!

 唇を軽く触れさせたまま、言えない言葉が喉に詰まって震えている俺に、アルははか細い呼吸の間で、またニコリと笑った。

















注)死んでないじゃないかーーーーー!(注、じゃない)
 でも死にます、これから、暫くの内に。
 病気の内容はご想像にお任せします(  ̄◇ ̄)まぁ、大体察しがつきそうな気がしますが、「国」の特徴を人間になった時のに合わせてみました(苦笑)サーセン
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